くるいたくない人間

「くるいたくない人間」 わたしはくるって終ったのでしょうか。この社会には狂人の生きる場所など、場末の酒屋にだってありゃしません。 すこし教養のありそうな初老の男から若い女まで、みな、輝いた笑顔で(この笑顔は私とは違ってきっと生来のものです)…

赤ん坊について

「赤ん坊について」 その赤ん坊は泣いていた。殺意からである。 冬の、よく晴れた、黄味がかった青空であった。 町のちいさな産婦人科でその赤ん坊は生まれた。取り上げたのは、老齢の産婦人科医であった。その赤ん坊はただずっと、ヤギのように泣いていた。…